インドネシアで従業員を雇用する企業にとって、残業代(時間外手当)の正確な計算は重要な人事・労務業務の一つです。
残業代を適切に支給することは、従業員の権利を守るだけでなく、企業がインドネシアの労働法令を遵守するためにも欠かせません。インドネシアでは、通常の勤務日の残業だけでなく、休日・祝日の勤務についても残業代の計算方法が細かく定められています。さらに、週5日勤務と週6日勤務では、休日・祝日の残業代の計算方法が異なるため、人事担当者は自社の勤務体系に合わせて正しく計算する必要があります。
本記事では、インドネシアにおける残業の基本ルールから、残業代の計算式、通常勤務日・休日・祝日における計算方法まで、具体例を交えて分かりやすく解説します。
1. インドネシアにおける残業とは?
インドネシアにおける残業(Lembur)とは、原則として法定労働時間を超えて従業員が勤務することを指します。現在の残業に関する主なルールは、政府規則PP 35/2021によって定められています。インドネシアの法定労働時間は、原則として次の2つの勤務体系があります。
- 週6日勤務:1日7時間・週40時間
- 週5日勤務:1日8時間・週40時間
この法定労働時間を超えて従業員を勤務させる場合、企業は原則として残業代を支払う必要があります。
2. インドネシアの残業時間の上限
PP 35/2021では、残業時間は原則として次の範囲に制限されています。
1日:最大4時間
1週間:最大18時間
なお、この週18時間には、週休日や祝日に行われる時間外労働は含まれません。また、残業を行うためには、会社からの残業命令と従業員本人の同意が必要です。これらは書面だけでなく、デジタル上で記録することも認められています。
そのため、人事担当者は実際の残業時間だけでなく、「誰が残業を命じたのか」「従業員が同意しているのか」という記録も適切に管理しておくことが重要です。さらに、従業員が4時間以上残業する場合、企業には1,400キロカロリー以上の飲食物を提供する義務があります。この飲食物の提供を金銭で代替することはできません。
3. 残業代の基本的な計算方法
インドネシアの残業代は、従業員の月額賃金を基準として計算します。まず、1時間あたりの賃金を次の計算式で算出します。
1時間あたりの賃金 = 月額賃金 ÷ 173
例えば、残業代の計算基礎となる月額賃金が7,000,000ルピアの場合、
7,000,000ルピア ÷ 173 = 約40,462ルピア
となります。この40,462ルピアを基準として、残業した時間や曜日に応じた割増率を掛けて残業代を計算します。
4. 通常の勤務日に残業した場合
通常の勤務日に法定労働時間を超えて勤務した場合、残業代は次のように計算します。
- 残業1時間目:1時間あたりの賃金 × 1.5倍
- 残業2時間目以降:1時間あたりの賃金 × 2倍
計算例
Alfaさんの残業代の計算基礎となる月額賃金を7,000,000ルピアとし、通常の勤務日に3時間残業したとします。
1時間あたりの賃金は、7,000,000ルピア ÷ 173 = 約40,462ルピアです。
1時間目:40,462ルピア × 1.5 = 60,693ルピア
2〜3時間目:40,462ルピア × 2倍 × 2時間 = 161,848ルピア
残業代合計:60,693ルピア + 161,848ルピア = 222,541ルピア
したがって、この場合の残業代は約222,541ルピアとなります。
5. 週6日勤務で休日・祝日に勤務した場合
週6日・週40時間勤務の企業では、週休日または祝日に勤務した場合、原則として次の割増率で残業代を計算します。
- 1時間目〜7時間目:2倍
- 8時間目:3倍
- 9時間目〜11時間目:4倍
計算例
Betaさんの残業代の計算基礎となる月額賃金は7,000,000ルピアで、休日・祝日に5時間勤務したとします。
1時間あたりの賃金は、7,000,000ルピア ÷ 173 = 約40,462ルピアです。
5時間すべてが2倍となるため、5時間 × 40,462ルピア × 2= 404,620ルピア
となります。したがって、Betaさんが受け取る残業代は約404,620ルピアです。
6. 週6日勤務で祝日が最も勤務時間の短い曜日に重なった場合
週6日勤務の場合、1週間40時間に調整するため、最も勤務時間が短い曜日が設定されているケースがあります。その曜日に祝日が重なり、従業員が勤務した場合は、次の割増率が適用されます。
- 1時間目〜5時間目:2倍
- 6時間目:3倍
- 7時間目〜9時間目:4倍
計算例
Gamaさんの残業代の計算基礎となる月額賃金は7,000,000ルピアで、最も所定労働時間が短い曜日にあたる祝日に7時間勤務したとします。
1時間あたりの賃金は、7,000,000ルピア ÷ 173 = 約40,462ルピアです。
最初の5時間:5時間 × 40,462ルピア × 2 = 404,620ルピア
6時間目:40,462ルピア × 3 = 121,386ルピア
7時間目:40,462ルピア × 4 = 161,848ルピア
残業代合計:404,620ルピア + 121,386ルピア + 161,848ルピア
= 687,854ルピア
したがって、この場合の残業代は約687,854ルピアとなります。
7. 週5日勤務で休日・祝日に勤務した場合
週5日・週40時間勤務の企業では、週休日または祝日に勤務した場合、次の割増率で計算します。
- 1時間目〜8時間目:2倍
- 9時間目:3倍
- 10時間目〜12時間目:4倍
計算例
Deltaさんの残業代の計算基礎となる月額賃金は7,000,000ルピアで、休日・祝日に9時間勤務したとします。
1時間あたりの賃金は、7,000,000ルピア ÷ 173 = 約40,462ルピアです。
最初の8時間:8時間 × 40,462ルピア × 2 = 647,392ルピア
9時間目:40,462ルピア × 3 = 121,386ルピア
残業代合計:647,392ルピア + 121,386ルピア = 768,778ルピア
したがって、この場合の残業代は約768,778ルピアとなります。
8. 残業代の計算基礎となる「月額賃金」に注意
残業代を計算する際、人事担当者が注意すべきポイントの一つが、どの給与項目を計算基礎に含めるかです。給与が基本給+固定手当で構成されている場合、原則としてその合計額の100%を残業代の計算基礎とします。
一方、給与が基本給+固定手当+非固定手当で構成されており、「基本給+固定手当」が給与総額の75%を下回る場合には、給与総額の75%を残業代の計算基礎として使用します。
例えば、
- 基本給:4,000,000ルピア
- 固定手当:1,000,000ルピア
- 非固定手当:2,000,000ルピア
の場合、給与総額は7,000,000ルピアです。
基本給+固定手当は5,000,000ルピアであり、給与総額7,000,000ルピアの75%である5,250,000ルピアを下回っています。
そのため、このケースでは5,000,000ルピアではなく、5,250,000ルピアを残業代の計算基礎として使用します。
このように、残業代は単純に「基本給÷173」で計算すればよいわけではありません。自社の給与構成を正しく把握したうえで、計算基礎となる賃金を設定することが重要です。
9. 残業代計算で企業が注意すべきポイント
残業代を正確に計算するためには、計算式だけでなく、残業そのものを適切に管理する仕組みも必要です。特に次のような点を確認しておきましょう。
- 実際の出退勤時間を正確に記録できているか
- 残業申請・承認の記録が残っているか
- 従業員本人の残業への同意を記録しているか
- 週5日勤務・週6日勤務を正しく設定しているか
- 通常日と休日・祝日を正しく判定できているか
- 基本給・固定手当・非固定手当を正しく区分しているか
- 勤怠データが給与計算へ正しく反映されているか
特に従業員数が増えると、Excelなどを使って残業時間と残業代を手作業で管理することは複雑になります。勤怠データと給与計算データが分かれている場合、転記ミスや計算ミスが発生する可能性も高まります。
10. HRISを活用して残業代計算を効率化する
残業代の計算を正確かつ効率的に行うためには、インドネシアの労働法令に対応したHRISを活用する方法があります。勤怠管理と給与計算が連携していれば、従業員の出退勤記録から残業時間を集計し、勤務体系や曜日に応じた割増率を給与計算へ反映できます。また、残業申請・承認をシステム化することで、「誰が、いつ、何時間の残業を申請・承認したのか」という履歴も管理しやすくなります。
HRISを選ぶ際には、機能の多さだけでなく、インドネシアの労働法令や制度変更に対応できるかどうかも重要です。
11. まとめ
インドネシアでは、残業代の計算方法が通常の勤務日、休日・祝日、週5日勤務、週6日勤務などによって異なります。
基本となる1時間あたりの賃金は、
月額賃金 ÷ 173
で算出します。
通常の勤務日では、残業1時間目が1.5倍、2時間目以降が2倍となります。一方、休日・祝日に勤務した場合には、勤務体系や労働時間に応じて2倍、3倍、4倍の割増率が適用されます。
さらに、残業代の計算基礎となる月額賃金についても、基本給・固定手当・非固定手当の構成を確認する必要があります。残業代を正確に計算するためには、給与計算だけでなく、出退勤記録、残業申請・承認、給与データを一元的に管理することが重要です。
Peoplyee HRISでは、従業員情報、勤怠管理、休暇管理、残業管理、給与計算などの人事業務を一つのシステムで管理できます。インドネシアにおける勤怠管理や残業代計算、給与計算業務の効率化を検討されている企業は、ぜひPeoplyee HRISをご活用ください。


