インドネシアでは、税務行政のデジタル化・効率化を目的として、新しい税務行政システム「Coretax DJP」が導入されています。Coretax DJPは、インドネシア財務省・税務総局(Direktorat Jenderal Pajak:DJP)が運営する税務行政の基幹システムで、2025年1月1日から正式に運用が開始されました。 従来、インドネシアでは納税者登録、税務申告、納税などで複数のシステムが利用されていました。Coretaxでは、これらの税務手続きを一つのプラットフォームに統合し、納税者登録、税務申告(SPT)、納税、税務サービスなどを一元的に管理できる仕組みへと移行しています。
インドネシアで事業を行う日系企業にとっても、Coretaxへの対応は重要です。特に人事・給与業務では、従業員のPPh21(個人所得税)の源泉徴収や税務申告にも関係するため、経営者だけでなく、人事・経理・財務担当者も基本的な仕組みを理解しておく必要があります。
本記事では、2026年時点の制度を踏まえ、Coretaxとは何か、導入された背景や目的、利用開始までの流れについて、日本人向けに分かりやすく解説します。
Coretaxとは?
Coretax DJPとは、インドネシア税務総局(DJP)が税務行政を近代化・統合するために導入した新しい税務行政システムです。「Core Tax Administration System(CTAS)」と呼ばれる税務行政の基幹システム刷新の一環として構築されました。従来、インドネシアの税務行政では複数のシステムやサービスが利用されていました。Coretaxでは、これらの税務関連業務を統合し、一つのシステム上で管理できるようにすることを目的としています。Coretaxでは、主に以下のような税務手続きを行うことができます。
- 納税者登録
- 税務申告(SPT)
- 納税
- 各種税務サービス
- 税務関連データの管理
- 税務調査・徴収に関連する行政手続き
DJPによると、2025年1月以降の税務行政について、登録、SPT提出、納税、各種サービスなどをCoretax DJPで取り扱っています。 つまりCoretaxは、単なる「新しい税務申告サイト」ではありません。インドネシアの税務行政全体をデジタル化・統合するための基幹システムと理解するとよいでしょう。
Coretaxが導入された背景
Coretaxは、インドネシア政府が進める税務行政基幹システム刷新プロジェクト(PSIAP:Pembaruan Sistem Inti Administrasi Perpajakan)の一環として導入されました。税務行政をより透明、効果的、説明可能かつ柔軟な仕組みにすることが、制度改革の大きな方向性です。 従来は複数の税務システムが存在していたため、納税者側だけでなく、行政側にとってもデータや手続きが分散するという課題がありました。
Coretaxによって税務情報や手続きを一元化することで、納税者の利便性を向上させるとともに、DJP側でもデータをより効率的に活用できる環境を構築することが期待されています。
Coretax導入の5つの目的
Coretaxの導入には、主に次のような目的があります。
1. 納税者のコンプライアンス向上
税務手続きを一つのシステムへ統合することで、納税者が申告・納税などの義務をよりスムーズに履行できる環境を整えます。手続きが分かりやすくなることで、自主的な申告・納税を促進することも期待されています。
2. 税務データの一元管理
Coretaxでは、納税者に関するさまざまな情報を統合して管理します。データを一元管理することで、納税者側の利便性だけでなく、DJPによる税務行政やデータ活用の効率向上も期待できます。
3. 税務手続きの効率化
納税者登録、SPTの提出、納税、各種申請などの手続きをデジタル化・統合することで、税務手続きの効率化を図ります。
4. 税務管理・監督の高度化
税務データが一元化されることで、DJPは納税者に関する情報をより包括的に把握できるようになります。これにより、税務リスクの分析や税務調査など、税務行政全体の高度化につながることが期待されています。
5. 税務行政全体の効率化
従来の複数システムを統合することで、行政側の重複業務を削減し、税務サービスの効率化を進めることもCoretax導入の重要な目的です。
Coretaxの法的根拠
Coretax導入の背景には、インドネシア政府による長期的な税務行政改革があります。その重要な法的根拠の一つが、大統領令(Perpres)第40号(2018年)です。同大統領令を基礎として、税務行政システムの刷新が進められてきました。
さらに、2024年には財務大臣規則(PMK)第81号(2024年)が制定され、Coretax導入に伴う税務手続きについて包括的な規定が整備されました。PMK 81/2024は2024年10月14日に制定され、2025年1月1日から施行されています。Coretax DJPも同日から税務行政に利用されています。
なお、PMK 81/2024はその後、税務制度やCoretaxの運用に合わせて複数回改正されています。2026年1月にはPMK 1/2026が公布・施行され、PMK 81/2024の第4次改正が行われました。したがって、2026年時点では、PMK 81/2024だけでなく、その最新の改正規定であるPMK 1/2026を含めて確認することが重要です。
Coretaxによって何が変わったのか?
大きな変化の一つが、税務サービスへのアクセスの統合です。従来は複数のサービスやシステムを利用する場面がありましたが、Coretaxでは一つのデジタルアクセスからDJPの各種税務サービスを利用できる仕組みが整備されています。DJPもCoretaxについて、SPT、納税、各種申請、個人データの変更などを一つのデジタルアクセスから利用できる仕組みとして案内しています。
また、2025年分の年次所得税申告(SPT Tahunan PPh)は、2026年からCoretax DJPを利用して行う運用となっています。従来利用されていたe-Filingやe-FormからCoretaxへの移行が進んでいるため、企業だけでなく個人の納税者にとっても重要な変更です。
Coretaxを利用する前に確認したいNIKとNPWP
インドネシア人の個人納税者については、NIK(国民ID番号)とNPWP(納税者番号)の統合も重要なポイントです。2025年1月1日以降、個人納税者についてNIKがNPWPとして利用される仕組みが本格化しています。そのため、Coretaxを利用する前に、自身のNIKとNPWPの登録状況を確認しておくことが重要です。特に企業の人事・給与担当者にとっては、従業員の税務情報が正しく登録されているかを確認することが、PPh21や年次税務手続きをスムーズに進めるうえでも重要になります。DJPも、NIKとNPWPが正しく統合されていない場合、CoretaxでのSPT申告に支障が出ると案内しています。
Coretaxを初めて利用する方法
Coretaxの利用方法は、これまでDJP Onlineを利用していたかどうかによって異なります。
1. DJP Onlineを利用したことがある場合
すでにDJP Onlineを利用していた納税者については、原則として新規に納税者登録をやり直す必要はありません。DJPの最新案内では、既存のDJP Online利用者はCoretaxの納税者アカウント自体はすでに有効化されており、初回アクセスに必要なパスワード取得・再設定などの手続きを行います。 初めて利用する場合は、Coretax DJPへアクセスし、案内に従ってパスワード設定などを行います。
登録済みのメールアドレスや電話番号へ確認情報が送られるため、DJPに登録している連絡先が現在も利用できるか確認しておきましょう。
2. NPWPはあるがDJP Onlineを利用したことがない場合
NPWPを取得しているものの、DJP Onlineを利用したことがない納税者は、Coretaxの「Aktivasi Akun Wajib Pajak(納税者アカウントの有効化)」から手続きを行います。 基本的な流れは次のとおりです。
- Coretax DJPへアクセスする
- 「Aktivasi Akun Wajib Pajak」を選択する
- NPWPを入力する
- 本人確認を行う
- メールアドレス・電話番号を確認する
- 必要事項を確認して申請する
- DJPから送付されるメールを確認する
- 初回ログイン後、パスワードなどを設定する
登録済みのメールアドレスや電話番号を利用できない場合についても、DJPは連絡先変更を伴う手続きを案内しています。
パスワードを忘れた場合
Coretaxのパスワードを忘れた場合は、ログイン画面の「Lupa Kata Sandi(パスワードを忘れた場合)」から再設定できます。基本的には、
- 「Lupa Kata Sandi」を選択
- NIKなど必要な情報を入力
- 登録済みメールアドレスまたは電話番号で確認
- CAPTCHAを入力
- DJPから送信される案内を確認
- 新しいパスワードを設定
という流れです。DJPは、パスワード再設定メールについて、送信元が公式ドメイン「@pajak.go.id」であることを確認するよう注意喚起しています。
Kode Otorisasi DJPの取得も忘れずに
Coretaxを利用する際には、アカウントへのアクセスだけでなく、Kode Otorisasi DJP(DJP認証コード)についても理解しておく必要があります。Kode Otorisasi DJPは、Coretax上で税務書類を電子的に署名するために使用されます。特に年次SPTなどの電子申告を完了するためには、電子署名が必要となるため、Coretaxへのアクセス準備と合わせて確認しておくことが重要です。
日系企業の人事・給与担当者がCoretaxを理解すべき理由
Coretaxというと、経理・税務部門だけが関係するシステムと思われがちです。しかし、インドネシアの日系企業では、人事・給与担当者にも関係します。その代表的なものが、PPh21(個人所得税)です。給与計算では、従業員の給与や各種手当などを基にPPh21を計算し、会社側で必要な源泉徴収・税務処理を行います。そのため、
人事管理システム(HRIS)で管理する従業員情報・給与データ
↓
Payroll(給与計算)
↓
PPh21の計算
↓
Coretaxを通じた税務手続き
という一連の流れを意識することが重要です。特に従業員数が増えてくると、Excelで従業員情報、勤怠、給与、PPh21を個別管理する方法では、データの転記ミスや確認作業が増えていきます。インドネシアで人事管理システム(HRIS)や給与計算システムを選定する際には、単に給与を計算できるかだけでなく、PPh21を含むインドネシアの税務実務に対応できるかも確認することが重要です。
まとめ:Coretaxはインドネシアの税務行政を支える新しい基盤
Coretax DJPは、単なる新しい税務申告システムではありません。納税者登録、税務申告、納税、各種税務サービスなどを統合し、インドネシアの税務行政そのものをデジタル化・効率化するための新しい基幹システムです。2025年1月1日に正式運用が開始され、2026年には2025年分の年次SPTもCoretaxを利用して申告する仕組みへ移行しています。 インドネシアの日系企業にとっても、Coretaxは経理・税務部門だけのテーマではありません。PPh21をはじめとする給与関連の税務手続きにも関係するため、人事・給与・経理のデータを正確に管理することが、これまで以上に重要になります。
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