インドネシアで会社を経営していると、人事部門にはさまざまな従業員データが蓄積されていきます。従業員数、採用人数、退職者数、勤怠、残業時間、休暇、人件費、人事評価など、多くの企業がすでにさまざまな人事データを持っています。しかし、
「毎月データを集計しているだけになっている」
「人事レポートはあるが、経営判断には使われていない」
「離職率は分かるが、なぜ退職しているのか分からない」
「人件費が増えているが、それが適正なのか判断できない」
という企業も少なくありません。人事データは、単に記録・保管するだけでは十分ではありません。重要なのは、人事データから組織の変化や課題を読み取り、採用、人員配置、人材定着、人件費などの経営判断につなげることです。このような考え方を、人事データ分析(People Analytics)と呼びます。
本記事では、インドネシアの日系企業向けに、人事データ分析とは何か、経営者・人事担当者が確認したいデータ、そして人事データを経営判断に活かすための8つの方法について解説します。
人事データ分析(People Analytics)とは?
人事データ分析(People Analytics)とは、従業員や組織に関するデータを収集・分析し、人事や経営上の意思決定に活用する取り組みです。People Analyticsは、HR Analytics、Workforce Analyticsなどと呼ばれることもあります。例えば、「退職者が増えている」という事実だけを見るのではなく、
- どの部署で退職が増えているのか
- どの勤続年数で退職が多いのか
- どの職種で定着率が低いのか
- 入社後何か月で退職しているのか
など、複数のデータを組み合わせて分析します。そして、その結果を、
- 採用方法の改善
- オンボーディングの見直し
- 人員配置
- 人材育成
- マネジメント改善
- 報酬制度の見直し
などにつなげていきます。つまり、人事データ分析の目的は、きれいなグラフやレポートを作ることではありません。「人と組織について、より適切な経営判断を行うこと」が本来の目的です。
なぜインドネシアの日系企業に人事データ分析が必要なのか?
インドネシア法人では、日本人経営者と現地HRチームの間で人事情報の見え方に差が生じることがあります。例えば経営会議で、
「最近、退職者が多くないですか?」
「残業が増えているのはどの部署ですか?」
「今年は何人採用する必要がありますか?」
「人件費は前年と比較してどれくらい増えていますか?」
と質問した際、その場で数字が出てこないケースです。HR担当者がExcelを確認し、複数のファイルから情報を集めて初めて回答できる状態では、経営判断にも時間がかかります。人事データを継続的に可視化・分析できるようにすると、「何となく人が足りない」ではなく、「この部署では従業員数に対して残業時間が継続的に増加している」といったように、データを基に組織の状況を把握しやすくなります。人事を「感覚」だけで判断するのではなく、データという共通言語を持つことが、人事データ分析の大きな役割です。
インドネシア法人の経営者が確認したい主な人事データ
すべての人事データを分析する必要はありません。まずは、自社の経営課題に関係するデータから確認することが重要です。例えば、インドネシア法人では次のようなデータが考えられます。
従業員数(Headcount)
全社だけでなく、部門、拠点、職種などに分けて確認します。従業員数の推移を見ることで、事業成長に対して人員が増えすぎていないか、反対に人員不足になっていないかを確認できます。
離職率(Turnover Rate)
一定期間にどれだけの従業員が退職したのかを確認します。全社平均だけでなく、部署、職種、勤続年数などで分けて見ることで、特定の組織に課題がないかを把握しやすくなります。
勤怠・欠勤
遅刻、欠勤、休暇などのデータも組織の状態を把握する材料になります。特定部署で欠勤が増えているなどの変化があれば、その背景を確認するきっかけになります。
残業時間
残業時間は給与計算のためだけのデータではありません。部署別・拠点別に継続して確認することで、人員不足、業務量の偏り、シフト設計などを見直す材料になります。
人件費
給与、手当、残業代、THR、BPJSなどを含む人件費の推移を確認します。Headcountだけではなく、人件費が売上や事業規模に対してどのように変化しているのかを見ることも重要です。
採用データ
採用人数、採用にかかった期間、オファー承諾率、入社率、入社後の定着状況などを確認します。採用数だけではなく、採用した人材が実際に定着・活躍しているかまで見ることで、採用活動の改善につなげられます。
人事評価・パフォーマンス
評価結果を部署や職種などの単位で確認することで、組織全体のパフォーマンスや人材育成上の課題を把握する材料になります。
重要なのは、一つの数字だけで結論を出さないことです。例えば残業時間が増えたからといって、すぐに「生産性が低下した」と判断できるわけではありません。売上増加、繁忙期、人員不足、新規プロジェクトなど、さまざまな要因が考えられるためです。複数のデータを組み合わせ、背景まで確認することが人事データ分析では重要になります。
人事データを経営判断に活かす8つの方法
では、実際にどのように人事データ分析を始めればよいのでしょうか。People Analyticsの考え方を、インドネシアの日系企業で実践しやすい8つのステップに整理します。
1. 最初に「何を知りたいのか」を決める
最初からすべての人事データを分析しようとする必要はありません。まず、「どの経営課題を解決したいのか」を明確にします。例えば、
- 離職率を下げたい
- 残業を減らしたい
- 採用後の早期退職を減らしたい
- 人件費を適正化したい
- 部門ごとの人員配置を見直したい
- 従業員のパフォーマンスを高めたい
などです。例えば「離職率を下げたい」という目的であれば、退職者数だけを見るのではなく、部署・職種・勤続年数・採用時期・評価などのデータを組み合わせるというように、目的によって必要なデータが変わります。人事データ分析は、データ → 課題を探すのではなく、経営課題 → 必要なデータを決めるという順番で始めることが重要です。
2. 「目的」を数字で定義する
目的を決めたら、次に「何をもって改善したと判断するのか」を決めます。例えば、「離職を減らす」だけでは、成功したかどうか判断できません。そこで、現在の離職率 → 目標離職率というように、可能な範囲でKPIを設定します。その他にも、
- 残業時間
- 採用リードタイム(採用にかかった期間)
- 欠勤率
- 早期離職率
- 一人当たり人件費
など、課題に応じた指標を設定できます。ここで重要なのは、指標そのものを目的にしないことです。KPIは、あくまで組織が改善しているかを確認するための指標です。
3. まず現在の人事データを整理する
分析を始める前に、どのようなデータが存在しているのかを確認します。例えば、
- 従業員情報
- 勤怠データ
- 給与データ
- 採用データ
- 人事評価
- 研修履歴
- 従業員エンゲージメント調査(Employee Engagement Survey)
- 退職者面談(Exit Interview)
などです。この段階で重要なのは、データ量ではありません。データが正確で、最新で、分析に使える状態になっているかです。例えば、部署名がファイルごとに違っていたり、退職者が従業員一覧に残っていたり、勤怠データと給与データでEmployee IDが異なっていたりすれば、正しい分析はできません。間違ったデータを分析すれば、間違った結論につながる可能性があります。そのため、People Analyticsを始める前に、まずデータの品質を確認する必要があります。
4. 誰がデータを管理・分析するのかを決める
人事データ分析は、HR担当者一人だけの仕事とは限りません。分析するテーマによって、
- HR(人事)
- Finance(財務・経理)
- Management(経営層)
- Department Manager(部門責任者)
- IT
など、複数部門が関係する場合があります。例えば人件費を分析する場合、HRが従業員情報を持ち、Financeが財務データを管理していることがあります。そのため、
- 誰がデータを管理するのか
- 誰が分析するのか
- 誰が確認するのか
- 誰が最終的に意思決定するのか
を明確にしておくことが重要です。また、人事データには給与、評価、個人情報など機密性の高い情報が含まれます。必要な人だけが必要なデータへアクセスできるよう、権限管理も重要です。
5. 必要なデータを収集・一元化する
次に、分析に必要なデータを集めます。ここで課題になりやすいのが、データの分散です。例えば、
- 従業員情報:Excel
- 勤怠:Fingerprint
- 給与:別のPayrollシステム
- 採用:Excel
- 人事評価:別ファイル
という状態では、分析するたびに複数のデータを集める必要があります。さらに、同じ従業員でもファイルごとに情報が異なれば、分析結果の信頼性も低下します。そのため、継続的に人事データを分析するのであれば、可能な範囲で従業員情報を一元化していくことが重要です。また、人事データを収集・利用する際には、利用目的、アクセス権限、保存方法など、個人情報保護にも配慮する必要があります。
6. データを「比較」して分析する
人事データ分析で重要なのが比較です。一つの数字だけを見るよりも、
- 前年との比較
- 前月との比較
- 部署間の比較
- 拠点間の比較
- 職種別の比較
- 勤続年数別の比較
を行うことで、変化や特徴を見つけやすくなります。例えば、会社全体の離職率だけを見ると大きな問題がないように見えても、
- 営業部門だけ離職率が高い
- 入社6か月以内の退職が多い
- 特定拠点で退職が集中している
といったことが分かるかもしれません。同様に残業についても、「全社の平均残業時間」だけではなく、部署 × 残業時間 × Headcountを比較することで、特定部署への業務集中や人員不足を検討する材料になります。重要なのは、相関関係をそのまま因果関係と判断しないことです。データから「何が起きているのか」を把握し、その背景について現場へのヒアリングなども含めて確認します。
7. 経営者が判断できる形で可視化する
人事データ分析の結果は、HRだけが理解できても意味がありません。経営者や部門責任者が、「では、何をすべきなのか」を判断できる形にする必要があります。例えば経営会議で100行のExcelを提示するより、
- Headcount:前年比+8%
- 人件費:前年比+15%
- 残業時間:前年比+22%
- 離職率:前年より3ポイント上昇
というように重要な数字を整理した方が、経営判断につながりやすくなります。さらに、事実 → 原因の仮説 → 経営への影響 → 推奨アクションという流れで報告すると分かりやすくなります。例えば、
事実:営業部門の入社6か月以内の離職が増加 ↓ 仮説:採用時の期待値と実際の業務内容にギャップ ↓ 影響:採用コスト増加・営業人員不足 ↓ アクション:採用プロセスとオンボーディングを見直す
という形です。人事レポートの目的は「報告すること」ではありません。経営者が次のアクションを決められることが重要です。
8. 分析して終わらず、継続的に改善する
People Analyticsは一度レポートを作れば終わりではありません。実際に施策を実施した後、数字がどう変化したのかを継続して確認する必要があります。例えば、
離職率が高い ↓ オンボーディングを改善 ↓ 3か月後・6か月後の早期離職率を確認 ↓ 改善していなければ別の原因を分析
というサイクルです。つまり、データ → 分析 → 意思決定 → 実行 → 効果測定 → 改善までを繰り返すことが重要です。人事データ分析の価値は、分析の高度さではなく、分析結果によって会社の行動が変わることにあります。
人事データ分析でよくある3つの失敗
People Analyticsを始める際には、注意したい点もあります。
1. データを集めることが目的になる
「とにかくすべての人事データを集めよう」とすると、管理項目だけが増えてしまいます。必要なのは、経営課題の解決に必要なデータです。まず目的を決め、その目的に必要なデータを集めることが重要です。
2. 一つの数字だけで結論を出す
例えば離職率が上昇したからといって、すぐに「マネジメントが悪い」と結論づけることはできません。採用人数の増加、市場環境、給与、仕事内容、勤務地、キャリアなど、さまざまな要因が考えられます。データは「答え」ではなく、正しい問いを見つける材料として活用することが重要です。
3. レポートを作って終わる
毎月、人事レポートを経営会議へ提出していても、その結果から何も意思決定されていなければPeople Analyticsとは言いにくいでしょう。例えば、「離職率10%でした」で終わるのではなく、
- 「どこで離職しているのか」
- 「なぜ起きている可能性があるのか」
- 「何を変えるのか」
- 「いつ効果を確認するのか」
までつなげることが重要です。
人事管理システムを活用して人事データを経営情報に変える
人事データ分析を継続するためには、分析以前に「正しいデータが蓄積されていること」が前提になります。Excelや紙、複数のシステムに情報が分散していると、分析するたびにデータを集め、加工し、数字が合っているか確認しなければなりません。そこで活用できるのが人事管理システム(HRIS)です。人事管理システムを活用して、
従業員情報 ↓ 勤怠 ↓ 残業・休暇 ↓ 給与計算 ↓ 人事レポート
といった人事データを一元管理することで、分析に必要な情報を整理しやすくなります。ただし、人事管理システムを導入すれば、自動的に経営判断が良くなるわけではありません。重要なのは、「どのデータを見るのか」だけではなく、「そのデータから何を判断し、どのような行動につなげるのか」です。人事管理システムは、そのための正確なデータを蓄積・可視化する基盤として活用することが重要です。
インドネシアの人事データ分析に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 人事データ分析(People Analytics)とは何ですか?
人事データ分析とは、従業員数、採用、退職、勤怠、残業、人件費、人事評価などのデータを分析し、人事施策や経営判断に活用する取り組みです。単に人事レポートを作成するのではなく、データから組織の課題を把握し、具体的な意思決定につなげることが目的です。
Q2. インドネシア法人では、まず何の人事データを見るべきですか?
企業の課題によって異なりますが、最初は従業員数(Headcount)、採用・退職、離職率、勤怠・欠勤、残業時間、人件費など、経営への影響が分かりやすい指標から始めるとよいでしょう。すべての指標を分析するのではなく、自社の経営課題に必要なデータから始めることが重要です。
Q3. 人事データ分析と人事レポートの違いは何ですか?
人事レポートは「何が起きたか」を整理することが中心です。人事データ分析では、そのデータを比較・分析し、「なぜ起きているのか」「どのような対応が必要か」まで考え、意思決定につなげます。
Q4. Excelでも人事データ分析はできますか?
従業員数が少なく、管理するデータも限定的であればExcelでも分析できます。一方、従業員数、拠点、データ量が増えると、複数ファイルからの集計、更新、データ整合性の確認などに時間がかかるようになります。重要なのはExcelか人事管理システムかではなく、正確で最新のデータを継続して分析できる状態になっているかです。
Q5. 人事管理システムを導入すればPeople Analyticsができますか?
人事管理システムはPeople Analyticsを行うためのデータ基盤として活用できますが、導入するだけで分析が完成するわけではありません。まず経営課題を明確にし、必要な指標を決め、データを分析して具体的なアクションにつなげる必要があります。
まとめ|人事データを「管理する」から「経営に使う」へ
これまで人事部門の重要な役割の一つは、従業員情報を正確に管理することでした。しかし、人事データがデジタル化され、さまざまな情報を蓄積できるようになった現在、その次に重要になるのが、「蓄積した人事データを、どう経営判断に活用するか」です。人事データ分析を始める際には、
- 目的を決める
- 成功を定義する
- 現在のデータを整理する
- 役割を決める
- データを一元化する
- 比較・分析する
- 経営判断ができる形で可視化す
- 実行後も継続的に改善する
という8つのステップで進めるとよいでしょう。特に重要なのは、高度な分析ツールを導入することではありません。経営課題からスタートし、必要なデータを見つけ、分析し、具体的な行動につなげることです。
Peoplyeeの人事管理システム(Peoplyee HRIS)では、従業員情報、勤怠、休暇、残業、給与計算(Payroll)など、インドネシア企業の人事管理に必要なデータを一つの人事管理システムで管理できます。Excelや紙に分散している人事データを一元化したい、人事レポートの作成に時間がかかっている、人事データを経営判断に活用できる環境を整えたい企業は、ぜひPeoplyee HRISの無料デモ・無料トライアルをご活用ください。



