人事管理システム(インドネシアではHRIS:以下HRIS)を導入したものの、「必要な機能がなかった」「従業員が使ってくれない」「既存システムと連携できない」といった問題が、導入後に判明するケースがあります。
HRISは、一度導入すると簡単に変更できるシステムではありません。そのため、導入前に自社の課題や必要な機能を整理し、複数のサービスを比較・検討することが重要です。特にインドネシアでは、給与計算(Payroll)、PPh21(個人所得税)、BPJS(社会保障制度)、残業代など、現地の法令・制度に対応する必要があります。また、従業員情報や給与情報などの機密性の高いデータを扱うため、機能だけでなく、セキュリティやアクセス権限、導入後のサポート体制なども重要な選定基準となります。
本記事では、HRISの導入を検討している企業向けに、HRIS選定で失敗しないために導入前に確認すべき12のポイントをチェックリスト形式で解説します。
HRISとは?
HRIS(Human Resource Information System)とは、従業員情報や人事業務を一元的に管理するための人事管理システムです。HRISでは、一般的に次のような人事業務を管理できます。
- 従業員情報管理
- 勤怠管理
- 休暇管理
- 残業管理
- 給与計算(Payroll)
- 各種手当・控除
- 人事評価
- 採用管理
- オンボーディング
- 研修・スキル管理
- Employee Self-Service(ESS)
これまでExcelや紙、複数のシステムに分散していた人事情報を一つのプラットフォームへ集約することで、情報の検索や更新、集計を迅速かつ正確に行えるようになります。
なぜ企業にHRISが必要なのか
従業員数が少ない段階では、Excelや紙を使った人事管理でも大きな問題が発生しない場合があります。しかし、企業の成長に伴って従業員数や拠点数が増えると、人事部門が管理する情報も急速に増加します。例えば、従業員情報、勤怠、休暇、残業、給与、税金、社会保障、人事評価などをそれぞれ別のExcelファイルで管理していると、同じ情報を何度も入力したり、複数のファイルを照合したりする必要があります。その結果、入力ミスやデータの不整合が発生しやすくなり、人事担当者の業務負担も増加します。HRISを導入することで、人事情報を一元管理し、こうした業務を効率化できます。企業がHRISを導入する主な目的には、次のようなものがあります。
- 従業員数の増加に対応する
- 人事業務を一元管理する
- 給与計算や勤怠管理のミスを削減する
- 従業員データをリアルタイムで管理する
- 人事データを可視化する
- コンプライアンスを強化する
- 従業員の利便性を向上させる
- 人事担当者の業務負担を軽減する
HRISへの投資は、単なる人事業務のデジタル化ではありません。人事担当者が日々の事務作業に費やす時間を削減し、人材育成、人事評価、従業員エンゲージメント、人材定着など、より付加価値の高い業務へ集中できる環境をつくることにもつながります。
HRIS導入前チェックリスト|確認すべき12のポイント
HRISの導入には、システム利用料だけでなく、データ移行や初期設定、社内への定着など、一定の時間とコストが必要です。そのため、「有名なHRISだから」「機能が多いから」といった理由だけで選ぶのではなく、自社の人事業務や運用方法に合っているかという視点から比較することが重要です。ここからは、HRIS導入前に確認すべき12のポイントをご紹介します。
1. 従業員情報を一元管理できるか
HRISの基本となるのが、従業員情報管理です。氏名や住所、連絡先などの基本情報だけでなく、企業によっては次のような情報を管理する必要があります。
- 所属部署
- 役職
- 雇用形態
- 入社日
- 契約期間
- 給与情報
- 人事評価履歴
- 研修履歴
- 資格情報
- 在籍状況
- 緊急連絡先
特にインドネシアでは、PKWT(有期雇用契約)の契約期間など、期限管理が必要になる情報もあります。自社で必要となる従業員情報を管理できるか、また必要な情報を簡単に検索・更新できるかを確認しましょう。
2. 給与計算(Payroll)が自社ルール・インドネシア法令に対応しているか
HRISにPayroll機能を求める場合、単に給与を計算できるだけでは十分ではありません。自社の給与制度やインドネシアの法令・制度に対応していることが重要です。例えば、次のような項目を確認しましょう。
- 基本給
- 固定手当・非固定手当
- 残業代
- ボーナス
- インセンティブ
- 経費精算(Reimbursement)
- 各種控除
- PPh21(個人所得税)
- BPJS Kesehatan
- BPJS Ketenagakerjaan
- THR(宗教祝日手当)
- デジタル給与明細(Payslip)
特にPPh21やBPJSなどは、制度や計算条件が変更されることがあります。現在の制度に対応しているだけでなく、法改正が発生した際にベンダー側が迅速にシステムを更新できるかまで確認することが重要です。
3. 勤怠・休暇・残業を一元管理できるか
勤怠管理は、給与計算と密接に関係しています。出退勤データを別のシステムやExcelで管理し、毎月Payrollへ手作業で転記していると、入力ミスや計算ミスが発生する可能性があります。HRISを選定する際は、次のような勤怠管理に対応しているか確認しましょう。
- 出退勤管理
- WFO(オフィス勤務)
- WFH(在宅勤務)
- シフト勤務
- GPSを利用した打刻
- 残業申請・承認
- 有給休暇
- 病気休暇
- 無給休暇
- 振替休日
- 祝日カレンダー
- 上長による承認
- 勤怠状況のリアルタイム確認
特に工場、営業所、店舗など複数拠点を持つ企業では、場所にかかわらず勤怠状況を確認できる仕組みが重要です。
4. 自社に必要な人事機能を備えているか
HRISによって搭載されている機能は異なります。従業員情報、勤怠、Payrollといった基本機能だけを提供するシステムもあれば、採用、人事評価、人材育成などまでカバーするシステムもあります。例えば、次のような機能があります。
採用管理(Recruitment)
- 応募者管理
- 選考進捗管理
- 面接管理
- Offer Letter管理
オンボーディング
- 入社書類の提出・回収
- 入社手続き
- HRISアカウント発行
- 新入社員への情報共有
人事評価
- 目標設定
- 評価
- フィードバック
- 評価履歴管理
Learning & Development
- 研修履歴
- 保有資格
- スキル管理
- 育成計画
重要なのは、「機能が多いHRIS」を選ぶことではありません。自社の課題を解決するために必要な機能があるかを基準に判断しましょう。
5. 従業員が使いやすいESSを備えているか
Employee Self-Service(ESS)とは、従業員自身が人事関連の情報確認や各種申請を行える機能です。例えば、従業員がスマートフォンやパソコンから、
- 個人情報を確認・更新する
- 休暇を申請する
- 残業を申請する
- 給与明細を確認する
- 勤怠状況を確認する
- 各種申請を行う
といったことが可能になります。ESSを活用することで、「給与明細を送ってください」「残りの有給休暇は何日ですか」といった人事部門への問い合わせを減らすことができます。ただし、機能があっても従業員が使えなければ意味がありません。画面が分かりやすいか、スマートフォンから利用しやすいかなど、UI(ユーザーインターフェース)・UX(ユーザー体験)も確認しましょう。
6. インドネシアの法令・制度変更に対応できるか
インドネシアでHRISを利用する場合、現地法令への対応は非常に重要です。給与計算、残業代、最低賃金、PPh21、BPJSなど、人事・労務に関連する制度は変更される可能性があります。そのため、「現在の制度に対応しているか」だけではなく、「制度が変わったときに対応できるか」という視点でベンダーを評価する必要があります。
海外で開発されたグローバルHRISの場合、人事管理機能は優れていても、インドネシア独自の給与計算や労務制度に十分対応できないケースも考えられます。インドネシアでの導入実績や、法改正時のアップデート体制について確認しておきましょう。
7. セキュリティ・アクセス権限は十分か
HRISでは、非常に機密性の高い情報を扱います。例えば、
- 住所
- 電話番号
- 銀行口座
- 給与
- 税務情報
- 人事評価
- 健康に関する情報
などです。そのため、セキュリティはHRIS選定における重要なポイントです。少なくとも、
- アクセス権限管理
- データ暗号化
- 不正アクセス対策
- 操作履歴(監査ログ)
- バックアップ
- データ保管方法
などを確認しましょう。例えば、一般社員、マネージャー、人事担当者、経営者では、閲覧できる情報が異なります。「誰が、どの情報を、どこまで閲覧・編集できるのか」を細かく設定できるHRISが理想的です。
8. 既存データをスムーズに移行できるか
HRIS導入時に意外と大きな負担となるのが、既存データの移行です。これまでExcelや別のシステムで管理していた、
- 従業員情報
- 給与情報
- 勤怠情報
- 休暇残日数
- 契約情報
- 過去の給与データ
などを、新しいHRISへ移行する必要があります。データを一件ずつ手入力する必要があると、導入までに多くの時間がかかるだけでなく、入力ミスの原因にもなります。CSVやExcelによる一括インポートに対応しているか、ベンダーがデータ移行をサポートしてくれるかなどを確認しましょう。また、将来的にデータを取り出す必要が生じる可能性もあるため、エクスポート機能についても確認しておくことが重要です。
9. 他システムとの連携・拡張性があるか
HRISを単独で使用するとは限りません。企業によっては、
- 会計システム
- ERP
- 銀行システム
- 採用管理システム
- その他の業務システム
などとの連携が必要になる場合があります。現在は必要なくても、企業規模の拡大によって将来的にシステム連携が必要になる可能性もあります。API連携やデータのインポート・エクスポートなど、他システムと連携できる仕組みがあるか確認しておきましょう。また、必要な機能を後から追加できるかどうかなど、将来的な拡張性も重要です。
10. クラウド・モバイル環境に対応しているか
現在、多くのHRISはクラウド型(SaaS:Software as a Service)で提供されています。クラウド型HRISでは、自社でサーバーを構築・管理する必要がなく、インターネット環境があれば利用できます。また、スマートフォンに対応していれば、従業員はオフィス以外からでも、
- 出退勤
- 休暇申請
- 残業申請
- 給与明細確認
- 各種承認
などを行えます。特に複数拠点を持つ企業や、営業担当者など外出の多い従業員がいる企業では、モバイル対応の有無は重要なチェックポイントです。
11. 導入・運用コストは適切か
HRISの価格を比較する際は、月額利用料だけで判断しないことが重要です。導入・運用には、さまざまな費用が発生する可能性があります。例えば、
- 初期導入費
- 月額・年間利用料
- 従業員数に応じた追加料金
- Payrollなど追加モジュールの料金
- データ移行費
- 初期設定費
- カスタマイズ費
- 導入トレーニング費
- サポート費
などです。初期費用が安くても、必要な機能を追加していくと総額が高くなる場合があります。そのため、単純な月額料金だけでなく、導入から運用までに必要となるTotal Cost of Ownership(TCO:総保有コスト)で比較することが重要です。また、単に「安いHRIS」を選ぶのではなく、HRIS導入によってどれだけ人事担当者の作業時間を削減できるか、給与計算や勤怠管理のミスを減らせるかという投資対効果も考えましょう。
12. 導入後のサポート体制は十分か
HRISは導入したら終わりではありません。実際には、導入後にさまざまな質問や問題が発生します。例えば、
「給与計算の設定方法が分からない」
「新しい手当を追加したい」
「勤怠ルールを変更したい」
「法改正によって計算方法が変わった」
といったケースです。そのため、HRISそのものの機能だけでなく、ベンダーのサポート体制も重要です。確認したいポイントとしては、
- 問い合わせ方法
- 対応時間
- 対応言語
- 導入時の初期設定サポート
- 操作トレーニング
- 法改正時のサポート
- 導入後のフォロー体制
などがあります。特にインドネシアの日系企業では、現地の人事担当者だけでなく、日本人経営者や管理者が問い合わせるケースもあります。必要に応じて、日本語で相談できる体制があるかどうかも確認しておくと安心です。
HRIS導入前に自社の課題を整理する
ここまで12のチェックポイントをご紹介しましたが、すべての企業に同じHRISが適しているわけではありません。HRISを比較する前に、まずは現在の人事業務にどのような課題があるのかを整理することが重要です。例えば、
- Payrollに毎月何時間かかっているか
- 勤怠データをExcelへ手入力していないか
- 給与計算のミスが発生していないか
- 休暇申請を紙やチャットで行っていないか
- 従業員情報が複数のExcelに分散していないか
- 人事担当者しか分からない業務がないか
- 給与明細を手作業で配布していないか
- 経営者が人事データをリアルタイムで確認できるか
といった点を確認してみましょう。現在の課題を明確にしたうえで、
- Must Have(必須機能)
- Nice to Have(あると望ましい機能)
に分けて要件を整理すると、HRISを比較しやすくなります。
無料デモ・トライアルで実際の運用を確認する
Webサイトや提案資料だけでHRISを判断するのではなく、可能であれば無料デモやトライアルを利用することをおすすめします。デモでは、単に機能の説明を聞くだけではなく、実際の自社業務を想定して確認することが重要です。例えば、
「従業員が休暇を申請した場合、上長の承認から残日数への反映までどう処理されるのか」
「残業申請から給与計算への反映までどのようにつながるのか」
「新入社員を登録するとき、どの程度の作業が必要なのか」
といった具体的な業務フローを実際に確認してみましょう。また、無料デモやトライアルは、システムだけでなくベンダーそのものを評価する機会でもあります。質問への回答スピードや説明の分かりやすさ、インドネシアの人事・労務に対する理解度なども確認しておくと、導入後のサポート品質を判断する材料になります。
まとめ
HRISは「機能の多さ」ではなく「自社に合っているか」で選ぶ。HRISを選ぶ際に重要なのは、最も多くの機能を搭載しているシステムを選ぶことではありません。重要なのは、自社が抱えている人事課題を解決できるHRISを選ぶことです。導入前には、従業員情報管理、給与計算、勤怠管理、ESS、法令対応、セキュリティ、システム連携、コスト、サポートなどを総合的に確認しましょう。また、インドネシアでHRISを導入する場合には、PPh21、BPJS、残業代などの現地制度に対応していることに加え、将来の法改正へ継続的に対応できるベンダーかどうかも重要です。
HRISを適切に導入することで、これまで人事担当者が手作業で行っていた業務を効率化し、入力ミスや計算ミスを削減できます。その結果、人事担当者は給与計算やデータ入力などの事務作業だけでなく、人材育成、人事評価、従業員エンゲージメント、人材定着、組織開発など、より戦略的な人事業務に時間を使えるようになります。
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