インドネシアで事業を展開する企業にとって、人事管理は年々複雑になっています。従業員情報の管理だけでなく、勤怠管理、給与計算(Payroll)、PPh21(個人所得税)、BPJS(社会保障制度)、休暇管理、THR(宗教大祭手当)など、インドネシア特有の制度にも対応しなければなりません。さらに、企業の成長に伴って従業員数が増えると、人事部門には人材育成、人事評価、従業員エンゲージメント、離職率の改善など、より戦略的な役割も求められるようになります。こうした人事業務を支えるシステムとして利用されているのが、人事管理システム(HRIS:Human Resource Information System)と人材マネジメントシステム(HRMS:Human Resource Management System)です。
HRISとHRMSは似た言葉ですが、それぞれ得意とする領域や目的には違いがあります。本記事では、インドネシアで人事システムの導入を検討している日系企業向けに、HRISとHRMSの違い、それぞれの役割、選び方について分かりやすく解説します。
HRISとHRMSとは?
HRISとHRMSは、どちらも企業の人事業務を支援するシステムです。ただし、一般的にはHRISが「人事情報や日常的な人事業務の管理」を中心とするのに対し、HRMSは「人材の育成・評価・活用まで含めた人材マネジメント」をより広くカバーするシステムとして使われる傾向があります。ただし、HRISとHRMSには世界共通の厳密な定義があるわけではありません。実際には、HRISという名称でも人事評価や採用管理まで提供するサービスがあり、HRMSという名称でも勤怠・給与管理を中心としているサービスがあります。そのため、名称だけで判断するのではなく、自社に必要な機能を備えているかどうかを確認することが重要です。
人事管理システム(HRIS)とは?
HRIS(Human Resource Information System)とは、従業員情報や日常的な人事業務を一元管理するための人事管理システムです。従業員の基本情報を中心に、勤怠、給与、休暇、各種手当など、人事部門が日常的に扱う情報を管理します。代表的な機能には、次のようなものがあります。
- 従業員情報管理
- 勤怠管理
- 休暇管理
- 給与計算(Payroll)
- 給与明細(Payslip)
- 各種手当・控除管理
- 経費精算(Reimbursement)
- 従業員セルフサービス(ESS:従業員自身が人事情報の確認・変更や休暇申請などを行える機能)
- 人事レポート
特にインドネシアでは、給与計算にPPh21、BPJS、THR、残業代などの制度が関係するため、インドネシアの法令・税制に対応したHRISを選ぶことが重要です。例えば、勤怠データと給与計算が連携していれば、残業時間や欠勤などをExcelへ転記する作業を削減できます。人事担当者の業務効率化だけでなく、給与計算ミスや入力ミスを防止するうえでもHRISは重要な役割を果たします。
人材マネジメントシステム(HRMS)とは?
HRMS(Human Resource Management System)とは、従業員情報の管理だけでなく、人材の採用・育成・評価・配置などを幅広く支援する人材マネジメントシステムです。HRISが日常的な人事業務の効率化を中心とするのに対し、HRMSでは従業員の能力やパフォーマンスを可視化し、企業の人材戦略に活用することを重視します。代表的な機能には、次のようなものがあります。
- 採用管理(ATS)
- オンボーディング人事評価・パフォーマンス管理
- 目標管理
- スキル管理
- 人材育成(Learning & Development)
- 従業員エンゲージメント
- 後継者育成(Succession Planning)
- People Analytics
例えば、従業員の評価結果、スキル、研修履歴、キャリアなどの情報を蓄積することで、「誰を次のマネージャー候補として育成するのか」「どの部署にどのような人材が不足しているのか」といった人材戦略に活用できます。
HRISとHRMSの目的の違い
HRISとHRMSの違いを理解するには、「何を管理するシステムなのか」ではなく、「何のために利用するのか」で考えると分かりやすくなります。
HRISの主な目的
HRISの主な目的は、日常的な人事業務を正確かつ効率的に管理することです。例えば、従業員100人の勤怠をExcelで集計し、そのデータを給与計算用のExcelへ転記している場合、多くの時間がかかるだけでなく、入力ミスや計算ミスが発生する可能性があります。HRISを導入することで、こうした業務を一つのシステム上で管理・自動化できます。つまりHRISは、「人事業務のオペレーションを効率化するためのシステム」と考えると分かりやすいでしょう。
HRMSの主な目的
HRMSの主な目的は、人材を育成・活用し、組織のパフォーマンスを高めることです。例えば、人事評価結果や従業員のスキル、研修履歴などを分析することで、将来の管理職候補を選定したり、必要な研修を設計したりできます。つまりHRMSは、「人材をどのように育成・配置・活用するかを支援するシステム」という位置づけです。
HRISとHRMSの主な違い
一般的に、HRISは従業員情報、勤怠、給与、休暇などの管理を中心としており、人事部門の日常業務を効率化する役割を担います。一方、HRMSはそれらの人事情報に加えて、人事評価、採用、人材育成、スキル管理、エンゲージメントなどを管理し、人材マネジメントを支援することに重点があります。簡単に整理すると、
HRIS:人事業務を正確・効率的に運営するためのシステム
HRMS:人材を育成・活用し、組織の成長につなげるためのシステム
という違いがあります。ただし、現在のクラウド型人事システムでは両者の機能が統合されているケースも多いため、名称だけで明確に区別することは難しくなっています。そのため、「HRISかHRMSか」という名称よりも、自社が解決したい人事課題に必要な機能があるかという視点で比較することが重要です。
HRIS・HRMSは誰が利用するのか?
人事システムは、人事担当者だけが利用するものではありません。現在では、人事・経理部門、管理職、一般従業員、経営層など、さまざまな立場の社員が利用します。
人事・経理部門
人事・経理担当者は、従業員情報、勤怠、休暇、給与計算などの機能を利用します。特にインドネシアでは、PPh21、BPJS、THR、残業代などを正確に給与へ反映する必要があるため、勤怠と給与データを一元管理できることが重要です。
管理職
管理職は、部下の勤怠状況を確認したり、休暇や残業の申請を承認したりします。HRMSの機能を利用する場合は、部下の目標設定や人事評価、育成状況なども確認できます。
従業員
従業員は、Employee Self-Service(ESS)を利用して、勤怠打刻、休暇申請、給与明細の確認、個人情報の更新、経費精算などを行います。従業員自身が手続きを行えることで、人事部門への問い合わせや事務作業を削減できます。
経営層
経営層は、人件費、従業員数、離職率、勤怠状況、人事KPIなどのデータを確認し、経営判断に活用します。HRMSまで活用すれば、評価、スキル、人材配置などのデータも含めて、より戦略的な人材マネジメントにつなげることができます。
インドネシア企業にはHRISとHRMSのどちらが必要?
インドネシアで人事システムを導入する場合、必ずしも最初から多機能なHRMSを導入する必要はありません。まず確認したいのは、現在、自社の人事部門がどのような課題を抱えているかです。
例えば、
- 「勤怠をExcelで管理している」
- 「給与計算に時間がかかっている」
- 「PPh21やBPJSの計算ミスを減らしたい」
- 「休暇申請を紙で管理している」
- 「従業員情報が複数のExcelに分散している」
といった課題が中心であれば、まずはHRISによって日常的な人事業務をデジタル化・自動化することが優先されます。一方、
- 「人事評価をシステム化したい」
- 「次世代リーダーを育成したい」
- 「従業員のスキルを可視化したい」
- 「離職率を分析・改善したい」
- 「採用から育成、評価まで一元管理したい」
といった課題が中心であれば、HRMS領域まで含めたシステムを検討する価値があります。
インドネシアで人事システムを選ぶ際のポイント
インドネシアでHRIS・HRMSを選ぶ際に重要なのは、機能数だけではありません。特に日系企業では、次のような点を確認することをおすすめします。
インドネシアの法令・税制に対応しているか
PPh21、BPJS、THR、残業代など、インドネシア特有の給与・労務制度に対応できるか確認しましょう。
勤怠と給与計算が連携しているか
勤怠データを給与計算へ手作業で転記する必要があるシステムでは、HRISを導入しても業務効率化が限定的になります。
従業員が使いやすいか
HRISは人事担当者だけでなく、従業員も日常的に利用します。スマートフォンから勤怠打刻や休暇申請が簡単にできるかなど、UI・UXも重要です。
現地でサポートを受けられるか
インドネシアでは法令や税制の変更が発生します。そのため、現地制度を理解したサポート担当者がいるかどうかも重要な判断基準です。
将来的に機能を拡張できるか
現在は勤怠・給与管理だけで十分でも、企業の成長に伴って人事評価、人材育成、採用管理などが必要になる可能性があります。現在必要な機能だけでなく、将来的な拡張性も確認しましょう。
まとめ|HRISとHRMSは名称ではなく「解決したい課題」で選ぶ
HRISとHRMSは、どちらも企業の人事業務を支える重要なシステムです。一般的には、HRISは従業員情報、勤怠、給与、休暇などの日常的な人事業務を効率化するシステムであり、HRMSは人事評価、人材育成、採用、エンゲージメントなどを含め、人材を戦略的に活用するためのシステムと考えられています。ただし、現在ではHRISとHRMSの機能領域が重なっているサービスも多く、名称だけでシステムを選ぶことに大きな意味はありません。
重要なのは、「HRISかHRMSか」ではなく、「自社が抱えている人事課題を解決できるか」です。特にインドネシアの日系企業では、まず従業員情報、勤怠管理、休暇管理、給与計算などの日常的な人事業務を正確かつ効率的に運用できる基盤を整えることが重要です。
そのうえで、企業の成長に合わせて人事評価や人材育成などの機能を拡張していく方法も有効です。
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